D2C時代に価値を生み出すためにブランドがすべきこと
ソーシャルメディアやeコマースなどのデジタル空間における能力の向上は、しばらく前から当たり前のこととなっていましたが、新型コロナウイルスにより、ネットに手を出すのが遅めだった人々や最後まで無縁だった人々にも命懸けの緊急事態という感覚がもたらされました。
日本では、消費者が全体的に従来の小売店から離れるのが遅く、都市部での客足も多いため、企業はより多くのクッションを抱えていました。
Amazonや楽天などの主要なECプラットフォームは、それぞれ約5,000万人ユーザー(人口の約40%)へと成長し、日本政府が取った自粛に近い政策により、多くの人々がオンライン小売を始めて使ってみるきっかけが生まれました。
ただし、大半のブランドが用いているアプローチには、微調整する必要があります。
従来の典型的なファネルはもう古いのです。
消費者向けブランドが使用する典型的なファネルとオンライン広告戦略は次の通りです。
このアプローチは必ずしも間違ってるわけではないんですが、製品購入に関して一次元的であるため、消費者の行動や市場の変化に対抗するうえで不利となります。
実のところ、このアプローチはあまりに脆弱すぎるのです。
このようなブランドは、実店舗に運営コストがかかっているため「店頭での購入」という目標を優先する傾向がありますが、今回誰もが経験したように、ステイホーム要請などがあれば、このコンバージョンポイントは完全に消えてなくなる可能性があります。
店舗での体験を再考し、ソーシャルメディアでうまくコミュニケーションを図り、D2Cの選択肢を用意することは現在では最低限の条件となっていますが、競合他社よりも目立ち、長期的な基盤を築くという課題は依然として残っています。
各ブランドがD2C時代に差別化を図り、価値を創出することは、ますます困難になっています。
その理由を述べます。
大半の製品は商品化されており、実際には必要とされていない。
InstagramのようなSNSが主流のチャネルになり、すべての競合他社が同じコミュニケーションツールを利用できるようになった。
ShopifyのようなECプラットフォームでは、小売に参入するハードルが低くなっているため、競争が激化し、同じテックスタックが使用されることも多くなる。
誰もが公平な場で戦うということは、目立つためにさらに多くのことをする必要があることを意味します。
ただ優れた製品に依存し、それが顧客に与えられる唯一の価値であるという状態は危険です。
この状態では、より大きなリソースまたはデータプールを持つ競合他社が挑戦してくるかもしれず、不確定要素が1つ変化したら収益が完全に停止する可能性があります。また、A地点からB地点への一直線のカスタマー・エクスペリエンスは、購入を超えたつながりにはなりません。
この状態は、コンバージョンを得るべくただ新規顧客を獲得しようとするだけのような、短期的かつどんどん持続不可能になる行動へとつながります。
では、ブランドは何をすべきなのでしょうか?
他の成長分野を探り、それらをつなぎましょう。
各ブランドは、カスタマー・バリューを提供できる、他の関連分野を検討するべきです。そこから、1つのコンバージョンポイントを中心とした獲得チャネルとして各分野を使用するのではなく、それぞれの戦略とファネルを再考することができます。
多次元D2Cブランドの例を次に示します。
この例では、ブランドは4つの分野(メディア、製品、イベント、サブスクリプション)で運営されています。
例のため、調理器具のブランドだとしましょう。
彼らは定期的にドキュメンタリーとHow to〜動画を作成し、調理器具を製造し、動画に出演していた影響力のあるシェフを目玉にしたイベントを主催し、サブスクリプションを介してこれらのシェフから毎月のレシピパッケージを販売してます。
これらの分野では、さまざまなアプローチが考えられます。
メディア分野では有料限定コンテンツを用意することもできますし、製品分野ではWebサイトまたはSMS経由で販売を行うことができます。イベント分野は工場見学からグルメイベントまで幅広く実施可能ですし、サブスクリプション分野は家族や単身大学生向けのものなどが考えられます。
各分野は、ゲーミフィケーション戦略を介してつながっています
顧客の行動は、ポジティブな強化によって奨励されます。Yu-kai Chouさんの「Octalysis」[E] によると、所有、エンパワーメント、達成などの人間の行動の原動力に基づいた、人間に焦点を合わせた設計を取り入れることによって、こうした顧客の「レベルアップ」が実行できることが示されています。
戦略は「Objective Laddering」と「Value Shift」の枠組みによって設計されてます。
対象となる顧客の行動を分析することにより、しばしば無意識のうちに抱いている彼らの真の目的を見つけることができます。彼らの意思決定を推進するのは、その真の目的です。そこから、顧客をその目標に関連付け、顧客がそのブランドのさまざまな分野を移動することを選択する可能性を高めることが、各ブランドが取りうるベストな行動計画です。
簡単に言えば、単純な店舗ポイントカードのシステムを用いて、それをPokemon Goの機能と組み合わせ、顧客に思い通りに結果をコントロールしている感覚を与えることにより、さまざまな行動を奨励することができます。
今の時代のブランドには複数のファネルがあるため、結果は製品購入と一次元的に関連しているわけではなく、各ブランドは複数の方法で顧客に関わっています。
このアプローチの主な利点は次の通りです。
複数の収益源の創出
競合他社に対する差別化と価値の創造
顧客ライフサイクルの延長
オンラインとオフラインのますます融合しつつある時代を迎え、かつてないほど消費者中心の時代が到来している今、他を抜きん出て目立ち、消費者にとって価値のある存在になるためには、創造的な戦略を模索する必要があります。
これまでお話ししてきたようにビジネスの側面でやるべきこともたくさんありますが、現在はSNSのインフルエンサーや有名人が、大きいなオーディエンスのためにこれまでに生み出してきた価値を活用し、自ら競合小売ブランドを立ち上げてる時代でもあります。
これは、「コミュニケーション」と「コマース」の世界が融合するにつれ、小売第一のブランドがメディアの側面でもこれまで以上に競争しなければならないことを意味します。
次回は、ブランドがメディアの側面で何をすべきかについて、僕の考えをお話します。